On Intelligence

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Jeff Hawkins(ジェフ・ホーキンズ)の On Intelligence を読みました。この本は脳の働きについての新しい理論を提示するもので、それにより知的な機械を作ろうというものです。 2004年の出版ですが、訳書「考える脳 考えるコンピューター」が2005年に出ていることは原書を読みはじめてから気づきました(検索すると、この訳書も結構読まれているようです)。私は2、3年前までは記号的な言語処理の世界にいたので、気づかなかったようです。しかし、私も著者と同様1980年ごろの学生時代に脳の仕組みをあれこれ調べていたので、私にとっては原点に戻らせてくれるような本だといえます。

以下は本の理論的な部分の概要です:
  • 脳科学者マウントキャッスルの原則: 新皮質領域はすべて同じ基本的な機能を持っている。
  • 新皮質は問題解決のために記憶を用いる。
  • 新皮質の記憶の4つの性質:
    • 新皮質はパターンの時系列を記憶する。
    • 新皮質はパターンを自己連想的に想起する。
    • 新皮質はパターンを「不変的(invariant)な」形で記憶する。
      ※ここで「不変的」というのは、さまざまなパターンに対して一定の応答をする(ようはパターン認識をする)ということですね。
    • 新皮質はパターンを階層によって記憶する。
  • 脳(新皮質)の基本的な機能は予測である。
  • 予測は知能を理解するためのカギである。
  • 新皮質のどの階層の領域でも(学習により)不変表現を生み出す(※どのレベルでもパターン認識をする)。
  • 皮質(カラム)内の微細な層構造の機能を理解することは重要である。
    例えば、時系列の学習は微細構造によって説明できる。
  • 感覚皮質も運動に関与する。
  • 視床を介するフィードバックは自己連想記憶に必要な遅延フィードバックと考えることができる。
  • 新皮質の高次の階層からのフィードバックは下層の皮質中で詳細なパターンの予測をもたらす。
  • 海馬は新皮質の階層の最上位にあって、新しい状況の記憶に寄与する。
  • 上位皮質階層への視床を介する神経回路は予想外のパターンの検証に用いられる。
この本の内容は(直感的には)概ね妥当だと思えます。この分野にはかなりご無沙汰していたので、私の代わりに万巻の資料を読んで本にしてくれたことは大変ありがたいと思います。

この本は理論の概要を説明していますが、(知的な機械の)実装についてはほとんど書いていません。その方面の研究は、レッドウッド神経科学研究所というところで続けられているそうなので、ぜひ研究内容を見てみようと思います。

個人的に考えてみたいこととしては、ここでの理論を抽象化して、例えば HMM のような他の予測モデルを使った知能のモデル化ができないかということがあります。

ホーキンズ氏は、人間の機能を再現することよりも、今まで見たこともないような知能を実現することに興味があるようです。確かに、人間の機能は人間が行えばよいので、実用的には人間の機能はそれほどおもしろいものではないかもしれません。しかし、パターン予測機械としての「人工皮質」は一種のデータマイニング装置でしかないともいえますし、そうした新しい知能機械が人間とコミュニケーションをとるには人間の機能、特に言語機能が必要であるようにも思えます。そうすると、やはり人間と感覚を同じくする機械を作ってみるというのも次のステップとして悪いものではないかと思います。

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